「・・・ねぇ八戒。」
「はい?」
「突然理由も無く・・・泣いたり、辛くなったりする時って・・・・・・ある?」
今の自分がそうだから、小首を傾げて八戒に尋ねてみた。
「は今そうなんですか?」
「・・・んー、そうかも。」
八戒に嘘をつくと余計に心配かけてしまうから・・・
あたしはいつも、八戒の前では誰よりも素直な女の子になれる。
本を読んでいた八戒がそれを机の上に置いてあたしの前に立つと、いつものように優しく頭を撫でてくれた。
「ちょっと待っていて下さいね。」
「ん。」
あたしが頷いたのを確認すると八戒は台所へと消えていった。
残されたあたしはソファーに置いてあった小さめのクッションを胸に抱えながら、八戒が向かった台所の方をじーっと見つめた。
台所からはお湯を沸かす音や、食器を出す音が聞こえてくる。
ただそれだけの事なのに・・・八戒がいるんだって思えて嬉しくなる自分が不思議だ。
それから数分後、八戒が二つのマグカップを持って戻ってきた。
「はい、には特別・・・生クリームを乗せましたからね。」
そう言って差し出してくれたのは温かいココア。
「あ、ありがとう・・・」
お礼を言って受け取ると八戒が隣に座ってやっぱり同じココアを飲んでいる・・・さすがに八戒の方には生クリーム、入ってないみたいだけど。
両手で抱えるようにマグカップを持ってふぅふぅ冷ましながら一口飲むと、ココア独特の甘みが口中に広がる。
猫舌だから一生懸命冷ましながら一口、また一口と飲んでいるあたしの姿を八戒が優しい笑顔で見つめているのに半分くらい飲んでから気が付いた。
「・・・疲れている時には甘い物が一番ですよ。」
「八戒・・・」
「好きな物を食べて、好きな事をして・・・それで元気が出たらまた頑張りましょう。」
八戒の優しい優しい言葉は・・・あたしの冷えた心をゆっくり溶かしていくようで・・・。
自然と頬を涙が伝って零れていく。
それを八戒はごく自然と指で拭い、あたしの空いている方の手にタオルを握らせてくれた。
「何か欲しい物はありますか?が望むなら何でも作ってあげますよ。」
持っていたカップを側のテーブルに置いて八戒が最初と同じように優しく頭を撫でてくれる。
「それとも・・・何かして欲しい事、ありますか?」
「・・・・・・・」
これ以上望んだらバチが当たるかもしれない。
だから声には出さず、小さく首を振ったんだけど・・・やっぱり八戒に嘘はつけなくて・・・
「・・・分かりました。」
気付いたらあたしは八戒に抱きしめられていた。
「ココアが冷めたらまた入れてあげます。・・・だから今は僕の腕の中でゆっくり休んでください。」
意味もなく疲れた時、人が望むモノ
それは言葉だったり、助けてくれる手だったり・・・それぞれだけど
本当に疲れた時に欲しいのは・・・大好きな人の、腕
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